少しずつ、少しずつ――――

 

 

消えていく感覚。

 

喪失感はあるのに、心は波打つこともなく。

 

揺れる視界。

 

映すは橙を片隅に抱く闇。

 

聞こえる浸食。

 

求むる息遣いは荒く、掛かる言葉は不在のまま。

 

漂う香り。

 

腐食を隠す花の馨しさは、腐爛の如き濃度を幾重にも宙へ浮かべて。

 

 

つと、傾けられた視野。

 

 

反転した世界の壁に一つ。

 

奇怪な逆さ吊り。

 

垂れる液は上を目指し、天井を濡らして。

 

ぬらぬら揺れる主は、頂を失した姿。

 

眺めても思いは不変、喉は沈黙を保ち。

 

 

悲鳴を奏でる心も見当たらない。

 

 

 

 

  


UP 2009/2/10 かなぶん

修正 2012/8/10

 

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